9月上旬に厚労省が医療機器として認めた。心電とは心臓の拍動を電気信号に置き換えたもの。従来のウエアラブル機器でも拍動を示す脈拍は把握できた。だが心電は医療用の心電計がなければ計測できなかった。精度は複数の電極を体に貼り付けて計測する病院の心電計に比べると低いが、夜間や早朝でも不整脈などが分かるようになる。

アップルウオッチの心電計アプリは米国では18年に提供を始めた。日本では制限がかかり、使用できない状況だった。

外来診療に活用

アップルウオッチの計測データを診察に使うクリニックも出てきた。慶応義塾大学医学部循環器内科の木村雄弘医師は患者がアップルウオッチを常時身につけていることで「計測や診断がしやすくなる」と期待する。

木村医師は都内クリニックの外来診療で18年からアップルウオッチを活用していた実績がある。医療機器としてではなく、運動量や体重の推移などを記録し、体調の把握などに役立てていた。19年にはアップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)が来日した際に取り組みを尋ねたこともあった。

木村医師は「発作時など症状が出たときの心電の波形がアプリに記録されていることが診断の材料になる」と語る。これまでは患者が不整脈などの症状を訴えても、症状があるときの心電図がないと十分に診断できなかったという。

心電を患者自身が確認できる利点も大きい。心電の状態から不整脈の兆候を察知できるようになれば、早めに診察を受けたり、脳卒中などを予防したりする手段になる。アプリには不整脈が出た場合にアラートを出す機能もあり、ウエアラブル機器が患者の健康管理に関わる度合いが増す。

日本では14年からスマートフォンなどのアプリが医療機器と認められるようになった。今回のアプリのほかにも、8月にはCureApp(キュア・アップ、東京・中央)の禁煙治療用スマホアプリが厚労省の承認を取得。アプリが薬のように病気を治療する役割を担うことになった。

こうした潮流はIT企業が医療産業に参入する「呼び水」になりそうだ。異業種も含めた様々な事業者が競うなかで、患者にとってより簡便で効果的な次世代の医療が現実のものとなる。

22年1.5兆円市場

米調査会社マーケッツアンドマーケッツは世界の医療用ウエアラブル機器市場が22年には144億ドル(約1兆5000億円)となり、16年の53億ドル(約5600億円)から3倍近くに膨らむと予測する。成長市場を狙って世界のIT大手の動きが加速している。

グーグルの親会社である米アルファベットの傘下企業、ベリリー・ライフサイエンシズ社も医療用途のウエアラブル機器に力を注ぐ。心電の計測機能を備えた腕時計型端末「スタディーウオッチ」を開発し、19年に米食品医薬品局(FDA)の承認を取得した。

アルファベットは19年11月には腕時計型端末大手の米フィットビットを約21億ドル(約2200億円)で買収すると発表、医療ヘルスケア分野を狙い攻勢をかけている。

韓国のサムスン電子は今年8月に発表したスマートウオッチの最新機種に血圧や心電の計測機能を搭載。韓国内での使用許可を得た。

アップルウオッチ、医療用に「心電計」アプリ、厚労省が認定 IT大手も開発競争

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