講座開設 合併症防ぐ治療 研究本格化

 長崎大は今年、患者自身の細胞を培養してつくる「細胞シート」を、初期の十二指腸がん治療に役立てる新たな再生医療技術の確立に向け、研究を本格化させる。十二指腸内側の粘膜にできたがんを内視鏡で削り取った後、その外側にシートを貼って穴があく合併症を防ぐ技術。シートの作製技術を持つ医療機器メーカー「テルモ」(東京)の出資で共同研究を進める「消化器再生医療学講座」を、同大大学院医歯薬学総合研究科に1日付で開設した。
 細胞シートは、重症心不全患者の心臓に貼って再生治療を促す「ハートシート」を、同社が2016年に発売。今回の研究は、同種のシートを消化器に活用するのが狙い。1日付で就任した同講座の金高賢悟教授は「動物実験で効果が確認できた。早期に臨床試験に着手し、数年以内の実用化を目指す」としている。
 十二指腸は小腸の一部で、胃からの入り口に当たる部分。金高教授によると、研究するのは内側の粘膜に生じた初期のがん細胞を削り取る「内視鏡下粘膜下層剝離術(ESD)」の後、治療した部位の外側にシートを貼って移植する技術。腹部の穴から差し込んで貼る腹腔(ふくくう)鏡手術の専用器具も、同大学院工学研究科と共同開発する。シートは直径約3センチ、厚さ0・1ミリ以下の円形で、足の筋肉(骨格筋)の細胞から作る。関連する特許を出願済み。
 十二指腸がんは、開腹手術などで切除するのが一般的。十二指腸のESDは近年実用化された治療方法で、患者の負担や危険が減る半面、消化液の影響で、がん細胞を削り取って薄くなった患部に後で穴が開く穿孔(せんこう)という合併症が起きやすくなる。現状は3割程度で穿孔が起きている。
 一方、シートは貼ると患部の再生を促す成分を出す作用があると考えられ、ブタを使った実験では穿孔を防ぐことができた。実用化により合併症のリスクが減れば、ESDで治療できる患者が増える効果が期待できる。
 長崎大は、患者の口内の細胞から培養した別種のシートを食道がん治療に役立てる技術を研究してきた経緯がある。「ハートシート」の実用化を受け、17年度から重点研究課題の一つとして今回の研究を進めている。研究を指揮してきた同大大学院移植・消化器外科の江口晋教授は「成功すれば他の消化器の疾患にも活用の可能性が広がる」と話す。

長崎大が新再生医療 十二指腸がんに「細胞シート」

出典:長崎新聞

第五のがん治療「光免疫療法」が世界に先駆けて日本で実用化された理由

手術、抗がん剤、放射線、免疫治療薬に続く「第五のがん治療」と言われる「光免疫療法」が世界に先駆け、日本で実用化される。楽天の子会社、楽天メディカルジャパンは9月25日、厚生労働省の承認を取得。29日に都内で記者会見した楽天の三木谷浩史会長兼社長は、「(今回、承認を取得した頭頸部がん以外のがんにも)対象を広げていきたい」と語った。

光を当てることでがん細胞だけを壊死させる

 承認を受けたのは、楽天メディカルジャパンが開発した医薬品「アキャルックス」。「切除不能な局所進行又は局所再発の頭頸部がん」を効能・効果として、厚労省から製造販売承認を取得した。同剤との組み合わせで使う医療機器レーザー装置の「バイオブレードレーザシステム」は9月2日に承認を取得している。

 光免疫療法とは、特殊な化学物質をがん細胞に集積させ、その物質に光を当てることでがん細胞だけを壊死させる、まったく新しい治療法だ。

 楽天メディカルは「光免疫療法」を使ったこの治療法を「イルミノックス・プラットフォーム」と名付けた。第1弾として承認を得た「アキャルックス」は、モノクロルーナ抗体の一種で、頭頸部がんのがん細胞の表面上に高いレベルで発現するタンパク質「ヒト上皮細胞成長因子受容体(EGFR)」に選択的に結合する。

 EGFRに結合したアキャルックスに光を照射するとがん細胞の表面に傷がついてそこから水が入り、膨張したのちに破裂して壊死してしまう。光免疫療法の発明者である米国立がん研究所(NCI)の研究員、小林久隆氏は29日の記者会見で特別講演し、従来のがん治療との違いをこう説明した。

「がん腫瘍はがん細胞とがんを助ける細胞(悪玉)と、がんと闘う細胞(善玉)のミックスチャー。既存の三大治療法(手術、抗がん剤、放射線)はその一切合切を取り除くやり方で、がんと闘う細胞まで痛めつけてしまう。光免疫療法は体の毒にならない化学物質を使って、がん細胞だけを狙い撃ちにする。攻撃と防御を両方行える治療法だ」

第五のがん治療「光免疫療法」が世界に先駆けて日本で実用化された理由

がん免疫治療薬効果予測法を開発 国立がん研究センター発表 NHK

ノーベル医学・生理学賞を受賞した京都大学の本庶佑特別教授の研究をもとに生まれた「オプジーボ」など、がんの免疫療法の薬を患者に投与して効果が出るか、高い精度で予測する方法を開発したと国立がん研究センターが発表しました。治療の向上や高額な治療薬の適切な投与につながると期待されています。

がんの治療では近年、がん細胞が免疫細胞の働きを抑えるのを防ぐことで、がんを攻撃する免疫療法の薬が複数開発されさまざまな種類のがんに対して使われるようになっています。

ただ、治療薬は高額で中には効果が見られない患者もいるため、国立がん研究センター研究所の西川博嘉分野長らの研究グループは、どのような場合に効果があるのか、およそ90人のがんの組織の遺伝情報や、発現しているたんぱく質を分析して調べました。

その結果、「PD-1」と呼ばれるたんぱく質が▽がんを攻撃する細胞に多く発現し、▽免疫を制御する細胞では発現している量が少ない場合に薬の効果が高いことが多いことが分かったということです。

研究グループでは、患者からとったわずかな量のがんの組織を特殊な処理液の中に入れたうえで解析することで、薬が効くかどうか見分ける方法も開発していて、患者の治療の向上や薬の適切な投与につながると期待されています。

西川分野長は、「投与によって状態が悪化する場合もあるが、そうした人を見分けることができるようになる。半年以内に臨床試験を始め、実用化を目指したい」と話しています。

がん免疫治療薬効果予測法を開発 国立がん研究センター発表

出典:NHK

2020年 3月16日 読売新聞 京大に「がん免疫総合研」、センター長に本庶佑氏

ノーベル生理学・医学賞受賞者の本庶佑(ほんじょたすく)・京都大特別教授は16日、読売新聞などの取材に対し、国内初となるがん免疫療法の研究拠点「がん免疫総合研究センター」が4月1日、京大内に発足することを明らかにした。センター長には本庶氏が就任する。

 センターは京大が設立し、当初は学内の既存施設を使う。2022年度に新たな研究棟を整備する。最終的に六つの研究部門を設け、本庶氏の研究を基に開発されたがん免疫治療薬「オプジーボ」の効果を高めたり、事前に効果を予測したりする研究などに取り組む。

 各部門には10人程度の研究者・スタッフを配置する予定だ。国内外の研究者を公募するほか、30代の若手が自由に研究に取り組める環境も整える。

 本庶氏は「他大学や企業とも連携し、世界のがん免疫研究の中心となるようなセンターにしたい」と抱負を語った。

京大に「がん免疫総合研」、センター長に本庶佑氏

2018年7月23日『日本経済新聞』がん免疫薬 安く代替、小さな分子で成果相次ぐ

 体内の免疫の攻撃力を高める高価ながん免疫薬「免疫チェックポイント阻害剤」の働きを、10分の1のコストで実現しようとする研究で成果が相次いでいる。千葉県がんセンター研究所や東北大学は、作りやすい小さな化合物で同じ働きをするものを開発した。高額薬の普及で懸念される医療財政の悪化を回避するのに役立つと期待を集めている。

 免疫チェックポイント阻害剤は、従来の抗がん剤が効かない患者も治せる薬として注目を集める。悪性黒色腫や肺がん、胃がんの一種の治療などに利用されている。細胞を培養して作るたんぱく質「抗体」からなり、作るのに手間がかかるので高価。薬代は年1000万円を超える。

 千葉県がんセンター研究所の永瀬浩喜研究所長らは、がんへの免疫の働きを高める小さな化合物を開発した。バイオ医薬の高い薬効と、従来型の安い製造コストの双方を兼ね備えた「中分子医薬」というもので、製薬会社が有望と期待するタイプの一つだ。

 免疫チェックポイント阻害剤が結合する免疫細胞やがん細胞の表面にある分子などができるのを妨げ、免疫細胞の働きが弱まるのを防ぐ。マウスの実験では大腸がんが消え、生存期間は6倍の1年以上に延びた。製薬企業と協力し、大腸がんやすい臓がん向けで3~5年後の臨床試験(治験)開始を目指す。

 東京工業大学の近藤科江教授や門之園哲哉助教は、免疫チェックポイント阻害剤よりも小さい化合物で、同じように働くものを開発した。肺がんや胃がんなど向けに5~10年後の治験を目指す。

 東北大学の菊地晴久准教授と扶桑薬品工業はより小さい低分子の化合物で、免疫のブレーキにかかわる分子を約8割減らすことに成功した。「サンシュユ」と呼ばれる漢方薬原料の抽出物をもとに作る。動物実験で効果を確かめ、悪性黒色腫や肺がんの一種などで5~6年後の治験を目指す。

 これらの小さな化合物の新薬候補は、抗体に比べて製造しやすく低コストになる。これらの中から免疫チェックポイント阻害剤を代替できる薬が実現できれば、薬代を10分の1に抑えられる可能性があるという。

 免疫チェックポイント阻害剤で効果が出るのは患者全体の2~3割といわれる。製薬会社は治療効果を高めて普及を促すため、併用する治療法の開発を急いでいる。小野薬品工業などは5月、免疫チェックポイント阻害剤である「オプジーボ」と「ヤーボイ」を併用する治療法で国内初の承認を得た。欧米でも実用化が進む。

 高額薬の併用が広がれば、医療財政の一層の負担になる。オプジーボの価格は2度の引き下げを経て約6割下がったが、今でも年1000万円を超える。

 がんは日本人の半数がかかる病気だ。高齢化にともない、国の医療費の増大が予想されており、高額薬を代替できる安価な治療法が求められている。

関連するキーワード

アクセスランキング

人気のあるまとめランキング

人気のキーワード

いま話題のキーワード