2017年5月26日『マイナビニュース』 免疫細胞を若返らせ、がんに対して強い効果をもつ細胞の作製に成功

日本医療研究開発機構は、疲弊した免疫細胞(T細胞)を若返らせ再活性化する技術を開発し、より効果的ながん治療へ応用することに成功したと発表した。

同研究は、慶應義塾大学医学部の吉村昭彦教授らと武田薬品工業の研究グループがAMED革新的先端研究開発支援事業の一環として行ったもので、同研究成果は英国時間5月22日に英科学雑誌「Nature Communications」のオンライン速報版に公開された。

がん患者の腫瘍組織などから分離したがんに特異的なT細胞を試験管内で大量培養し、患者へ再び戻す細胞移入療法はきわめて有用な治療法であると考えられているが、がん組織や試験管内で何度も刺激を受けることで、T細胞は疲弊状態に陥ってしまい、疲弊状態に陥ったT細胞を患者体内に戻しても、がん細胞を攻撃する力が弱く、十分な治療効果を得ることができないという問題を抱えていた。また、近年、メモリーT細胞の中に、幹細胞様メモリーT細胞(ステムセルメモリーT細胞=TSCM)という新たな細胞が発見された。TSCMは抗原による刺激をうけても疲弊状態にない若いT細胞で、寿命が長く、また再度の抗原刺激に対して素早く応答するので、がん治療やワクチンへの応用が期待されている。これまでに未感作T細胞に薬剤を用いてTSCMを誘導する方法は報告されているが、得られる細胞数は少なく、簡単なステップで、がんに特異的なTSCM細胞を大量に得る方法が求められていたということだ。

同研究グループは、効果的ながん特異的T細胞を用いた、細胞移入療法の確立をめざして、一旦活性化され疲弊したT細胞を未感作に近い状態(若返った状態)に戻す方法を探索した。その結果、活性化したT細胞をOP9-DL1と呼ばれるストローマ細胞と共培養すると活性化T細胞にNotchと呼ばれる特殊な刺激が入ることで、より未感作状態に近いT細胞が生まれることがわかった。この未感作状態に近いT細胞は、疲弊状態を示す免疫チェックポイント分子であるPD1とCTLA4の発現がほぼ消滅し、より若返った状態であった。このT細胞は、迅速に大量の活性化T細胞を生み出し、マウス体内において長期生存・自己複製する能力を示したという。これらの性質はステムセルメモリーT細胞によく似ており「誘導性ステムセルメモリーT細胞(iTSCM)」と名付けられた。

マイナビニュース

2017年5月25日『日本経済新聞』 筋萎縮性側索硬化症(ALS)の進行抑制に効果か、京都大学が患者のiPS細胞を用いて実証

 京都大iPS細胞研究所の井上治久教授らは24日、全身の筋肉が次第に衰えていく難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療につながる薬の候補物質を突き止めたと発表した。マウスを使った実験で、慢性骨髄性白血病の治療薬の効果が高いことを確かめた。すぐに使えるわけではないが、有効な治療法がない難病の克服に近づいたとみている。

 ALSは運動神経が徐々に機能を失って全身の筋肉が動かなくなる病気で、原因や詳しい仕組みはわかっていない。50歳以上に多く、国内の患者は約9500人いる。

 研究グループはまず、ALSの患者の皮膚からiPS細胞を作って運動神経細胞に変化させて調べた。健康な人から作った神経細胞と比べると、異常なたんぱく質が蓄積して細胞死が起こりやすくなることを見つけた。さらに、処方薬など1416個の化合物について調べたところ、27個が細胞死を強く抑えていた。

 このうち慢性骨髄性白血病の治療薬「ボスチニブ」は細胞内で不要なたんぱく質を分解するオートファジーを促す機能があり、ALSの原因たんぱく質を減らすとわかった。ALSにかかっているマウスにボスチニブを投与すると、発症を遅らせて生存期間を延ばす効果を確認できた。

 いろいろなタイプのALSに効果が期待できるという。井上教授は「医療現場で使えるようになるには少なくとも数年、新たな薬の開発には5~10年の時間がかかる」と話した。

関連サイト

筋肉の難病ALSに白血病薬が有効 京大、iPS活用

2017年5月13日『日本経済新聞』 絶滅危惧種の精子と卵子、iPS細胞から生成成功

 絶滅危惧種に指定されている国の天然記念物アマミトゲネズミの細胞から人工多能性幹細胞(iPS細胞)を作り、精子や卵子に成長させることに成功したと、宮崎大などのチームが13日までに、米科学誌電子版に発表した。マウス、ラット以外の動物のiPS細胞から精子や卵子を作ったのは世界初といい、チームは「種の多様性を確保する手段としてiPS細胞が役立つ可能性がある」としている。

 アマミトゲネズミは鹿児島県の奄美大島にのみ生息する日本の固有種。森林伐採や野良猫などによる食害で個体数が激減している。生物学的にも、ほとんどの哺乳類の雄が持っているY染色体を持たず、雌雄で遺伝情報の違いがほとんどないという珍しい特徴がある。

 チームは雌のアマミトゲネズミの尾からiPS細胞を作製。マウスの受精卵に入れた後に子宮に移植し、マウスとアマミトゲネズミの2つの細胞が混在する雄や雌のマウスを産ませた。

 これらのマウスが成長した後に精巣や卵巣の中を調べると、ほとんどがマウスの精子や卵子だったが、全体の0.03~0.29%はiPS細胞由来のアマミトゲネズミの精子や卵子だった。

 iPS細胞は医療以外に絶滅危惧種の数を増やす手段としても期待されており、九州大も地球上に3頭しか生き残っていないキタシロサイの卵子作りを研究している。

 宮崎大のチームは、現状では精子と卵子を取り出して体外受精させることは難しいとしており、今後は体外で効率的に卵子や精子を作る方法を研究し、受精卵の作製を目指す。宮崎大の本多新研究員は「野生に戻すことまでは考えていないが、絶滅に備え、個体を復活させる研究を進展させたい」と話した。

関連サイト

絶滅危惧種、iPSから精子・卵子作製 アマミトゲネズミ

2017年4月3日『毎日新聞』 再生医療に指針 犬と猫「科学的に有効」限定

 ペットの犬や猫への再生医療などについて、獣医師が治療を実施する際のガイドライン(指針)を、日本獣医再生医療学会と日本獣医再生・細胞療法学会が初めてまとめた。実施は重病のケースだけで、科学的に治療効果が期待される場合のみに限るなどの規制を盛り込んだ。

 人間の場合は再生医療安全性確保法に基づいて国に届け出るなど規制があるが、ペットにはなく、治療方針の判断は獣医師に委ねられているのが現状。治療費も獣医師が独自に決めている。ペットの再生医療の増加を受け、効果不明な治療や、治療費をめぐるトラブルが増えているため、指針で規制することにした。

 指針は、再生医療のほか、免疫細胞などを加工して行う細胞療法が対象。指針作成委員会の枝村一弥委員長によると、ウェブサイトで再生医療などを掲げている動物病院は2月現在で160以上ある。一方、犬と猫で効果が確かめられているのは、関節炎の再生医療や、一部のがんに対する免疫細胞療法などに限られている。

 指針によると、ペットの再生医療と細胞療法を実施する際は、身体の機能を損なったり、生命を脅かしたりする重い病気にかかった場合に限定。実施する際は、第三者機関に届け出ることを定めた。遺伝子操作した細胞やiPS細胞(人工多能性幹細胞)、ES細胞(胚性幹細胞)を使う場合は、治療の実施機関内に設けた倫理審査委員会の審査も義務付けた。

 また、獣医師に対しては、科学的に効果があるとされている治療でも、確立したものではないことを飼い主に説明することも求めた。枝村委員長は「指針に基づいた治療は、獣医師の信頼性を高める。誤解なく、再生医療や細胞療法を普及させることにもつながる」と話す。

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