
再生医療・iPS細胞ニュース
iPS細胞から心筋細胞を一度に大量に作り出す技術を、慶応大の福田恵一教授(循環器内科)らの研究チームが開発した。重い心不全で心筋細胞が失われた患者に移植する治療の実施にめどが立ったとして、同大は来年度にも、実際の患者を治療する臨床研究を始める予定だ。米科学誌ステムセルリポーツに6日、研究成果を発表した。
心筋梗塞(こうそく)や拡張型心筋症などに伴う重い心不全になると、心臓を拍動させている心筋細胞が数億個失われる。研究チームは、iPS細胞から心筋細胞を作る技術を手がけてきたが、心臓の機能を再生させるのに必要な数の心筋細胞を、一度に多く作る技術が実現できていなかった。
研究チームは今回、iPS細胞を培養するプレート(縦約20センチ、横約30センチ)を10層に重ね、プレート内に酸素や二酸化炭素を均一に送り込む装置を開発。通気しない場合と比べて、1週間で約1・5倍のiPS細胞が得られた。さらに、プレート内でiPS細胞を分化させることで、数人分の治療ができる約10億個の心筋細胞を一度に作ることができた。従来の培養皿(直径約10センチ)では、同じ量を作るのに100枚以上が必要で、心筋細胞の質を均一にすることが困難だった。
臨床研究では、作った心筋細胞を患者の心臓に注射で移植。元の心筋と一体化させ、血液を送る機能を向上することを目指す。
また、味の素と共同開発した培養液を使い、移植された場合に体の中でがん化する恐れがある幹細胞を取り除き、心筋細胞だけを選別できることも確認した。福田教授は、「安全性の高い心筋細胞を大量培養できるようになったことは、臨床研究に向けての大きなステップだ。再生医療の産業化にもつながる」と話している。
朝日新聞デジタル
2017年8月24日『日本経済新聞』iPS細胞自動培養装置をパナソニックが商用化へ
パナソニックは23日、iPS細胞を全自動で培養できる実験装置の販売を始めると発表した。装置は京都大学と共同で開発した。細胞の培養液を取り換えたり、頃合いを見て新しい培養皿に細胞を移したりする作業を全て自動で行う。iPS細胞を使って効率的に新薬を開発する創薬研究向けで、製薬会社や大学などの研究機関向けの販売を予定している。
価格は約5000万円で2017年度内に5台、22年度には約15台の販売を目指す。
大きさは幅2.7メートル、高さ2.4メートル。実験用の大型ボックスの中に備え付けられたロボットアームが自動で容器から液体を移したり、細胞ののった培養皿を運んだりする。
培養中の細胞の形状を撮影し、細胞を別の培養皿へ移し替える最適なタイミングを自動で判別。移し替えを20回繰り返し、実際に60日間安定してiPS細胞を培養できた。
iPS細胞から様々な臓器の細胞を作ると、新薬の効き目や副作用を調べる実験が効率的に進む。ただ、そのためには常に元のiPS細胞を培養し続ける必要があり、研究機関ではこの作業に手間がかかっていた。
全自動の培養装置を使うと実験の再現性が高まる。より信頼性の高い実験ができる利点もある。
2017年8月22日『日本経済新聞』動物体内での人の臓器作成、文部科学省が一部解禁へ
文部科学省の専門委員会は21日、移植用の臓器を作るため、動物の受精卵に人間の細胞を注入した胚と呼ぶ特殊な細胞の塊を動物の子宮に戻す研究を認めることで大筋合意した。従来は動物の体内で育てることを禁止していた。年内に報告書をまとめ、国は来年にも指針を改定する見通し。
特定の臓器ができないよう遺伝子操作した動物の受精卵に人の細胞を移植、動物の子宮に入れて妊娠させる。そのまま育てると、人の臓器を持つ動物の子どもができるとされる。動物の受精卵に人のiPS細胞を入れてブタなどの体内で臓器を作る研究が国内外で進んでいるが、実際に移植に使える臓器ができているかは確かめられていない。
同日の専門委員会では、研究の必要性を科学的、合理的に説明できることなどを条件に認められるとの方向性を打ち出した。研究計画は実施研究機関の倫理委員会で承認後、国が個々に了承する方向で検討する。
人の細胞が混じった動物の出産を認めるかは、今後議論する。人の脳神経や生殖細胞などを作ったり、霊長類を使ったりする研究についても今後の検討課題とした。
2017年8月21日『日本経済新聞』理化学研究所など、難病患者のiPS細胞関連の研究を支援するiPSポータルと協力
理化学研究所は難病などの患者から作ったiPS細胞の活用で、iPS細胞関連の研究支援をするiPSポータル(京都市)と協力する。理研が保管するiPS細胞の活用を、iPSポータルが製薬企業などに働きかけるとともに、必要な実験も請け負う。患者のiPS細胞を利用しやすい体制を整えることで、医療に革新をもたらすiPS細胞を、様々な病気の治療薬開発に役立てる。
患者から作った「疾患特異的iPS細胞」を使えば試験管内で病気を再現でき、新薬開発の効率向上に役立つ。理研は大学などから寄託を受け、疾患iPS細胞を企業や研究機関が使えるバンクとして整備している。
iPSポータルは理研と疾患iPS細胞の情報を共有し、製薬企業や化粧品会社などを対象に営業活動を進める。同社は細胞の解析などの研究支援を企業から請け負うことでiPS細胞の活用を促し、収益化も狙う。
理研は疾患iPS細胞の保管を2010年12月に始めた。現在はALS(筋萎縮性側索硬化症)などの難病を中心に、約290種類の病気の患者から作った3000株以上のiPS細胞を保管する。ただ、外部への提供は約30兼にとどまっている。疾患iPS細胞は今後も増える見込みで、iPSポータルとの協力で外部での活用を広げる。
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出典:疾患iPS細胞の利活用促進を目的とした理研BRCとの提携について | 株式会社iPSポータル
2017年8月18日『日本経済新聞』京大など、不妊マウスから得たiPS細胞で精子を作成し、子を誕生させることに成功
性染色体の異常で起きる「無精子症」のマウスの人工多能性幹細胞(iPS細胞)から精子を作り、通常の卵子と体外受精させて、異常のない子を誕生させることに成功したと、京都大の斎藤通紀教授(細胞生物学)らの国際チームが17日付の米科学誌サイエンス電子版に発表した。
無精子症であっても、iPS細胞にするとなぜ精子ができるようになるのかのメカニズムは不明。斎藤教授は「iPS細胞の作製過程で異常な染色体が欠落するのではないか。染色体や遺伝子異常が原因の不妊の治療法開発につながる可能性がある」としている。
チームは、通常2本ある染色体が3本になるトリソミーという異常が性染色体にある無精子症のマウスを作製。
このマウスからiPS細胞を作ると12%程度、異常のないものができたため、精子のもとになる生殖細胞に変化させた。この生殖細胞を、自身の精子は作れないようにした別のマウスの精巣に移植すると精子に変化し、卵子と受精させると、子が生まれた。生まれた子の性染色体は通常の2本だった。
また性染色体異常で精子ができにくいクラインフェルター症候群の患者から細胞を採取してiPS細胞にすると、数%の細胞で異常がなくなっていた。21番染色体に異常のあるダウン症の患者の細胞からも、異常のないiPS細胞ができた。
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出典:京都大学大学院
2017年8月7日『日本経済新聞』 第一三共、iPS細胞事業に参入 心筋再生で阪大発VBに出資
体のあらゆる部分になることができる万能細胞「iPS細胞」を活用した医療品の開発や販売に加わる製薬企業が相次いでいる。第一三共は7日、心臓の筋肉を再生できる心筋シートの事業化に着手すると発表。ベンチャーのメガカリオン(京都市)らも血液の成分である血小板の量産技術を確立した。研究開発を促す法整備などを背景に、iPS細胞の実用化が間近に迫ってきた。
第一三共は大阪大学発ベンチャーのクオリプス(横浜市)に出資した。出資額は非公開。iPS細胞をもとに作製した心筋シートを心臓に貼り付ける手法の実用化を目指す。重症の心不全患者に対し、心臓移植や人工心臓に代わる治療になる見込み。
阪大の医師が臨床試験を準備しており、第一三共は生産技術の開発などで連携できるか探る。実用化すれば全世界での販売権も得る。第一三共にとってiPS分野での提携は今回が初。
メガカリオンも同日、血液の成分である血小板をiPS細胞から量産する技術を、大塚ホールディングスやシスメックスなど国内の製薬・化学関連企業15社と確立したと正式発表した。20年の承認を目指す。実用化すれば献血に頼らず輸血ができるようになる。
京都大学の山中伸弥教授がiPS細胞の作製に世界で初めて成功したものの、実際の関連ビジネスでは、日本企業が欧米企業の後じんを拝しているとの指摘もある。14年にはiPS細胞を含む再生医療等製品の早期承認制度がスタートするなど、国内で実用化を促す仕組みも整いつつある。本格的な国際競争に向け、日本企業は正念場を迎えそうだ。
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出典:株式会社メガカリオン