2018年11月13日『朝日新聞』iPSで脊髄損傷治療、慶大が承認へ 来夏にも臨床研究

 世界で初めてiPS細胞から神経のもとになる細胞をつくり、重い脊髄(せきずい)損傷の患者に移植する、慶応大のグループの臨床研究について、再生医療を審査する学内の委員会は13日、計画の妥当性を検討した。大きな異論はなく、承認される見通しになった。承認後グループは計画を国に申請する。

 厚生労働省の専門部会で認められ、順調に進めば来夏にも臨床研究が始まる。

 事故などで国内で毎年約5千人が脊髄損傷になり、患者は10万人以上いるとされる。脳からの命令を神経に伝えることが出来ず、手足が動かせなくなったり、感覚がまひしたりする。現在は損傷した部位を完全に修復する治療法はない。

 計画しているのは岡野栄之教授(生理学)と中村雅也教授(整形外科学)らのグループ。京都大iPS細胞研究所から提供されたiPS細胞を、神経のもとになる細胞に変化させる。200万個の細胞を脊髄の損傷部に注入し、脳からの信号を伝える組織をつくることで、運動機能や知覚の回復を目指す。

 運動や感覚の機能が失われた「完全まひ」で18歳以上の4人が対象。組織の修復が盛んになる損傷から2~4週間程度の患者にする。損傷から時間がたった人より修復を期待できるためだ。他人由来のiPS細胞を使うため、免疫抑制剤で拒絶反応を抑える。移植した細胞が腫瘍(しゅよう)化する恐れがあり、移植後の半年間のリハビリと合わせ、1年かけて安全性と効果を慎重に確認していく。

 岡野教授らは脊髄を損傷した小型サルの一種マーモセットに、ヒトのiPS細胞からつくった細胞を移植し、歩けるよう回復させることに成功している。

 iPS細胞を移植して治療する臨床研究は、目の病気の加齢黄斑変性で6人に実施。京都大でパーキンソン病の治験が進む。大阪大では心不全の患者に心臓の筋肉のシートを移植する計画。京都大では血液の難病などでも予定されている。(戸田政考)

2018年5月17日『日本経済新聞』iPS細胞本格利用へ前進 阪大、年度内に心臓病治療 再生医療の中軸に

 日本発の再生医療であるiPS細胞(総合2面きょうのことば)の治療が新たな段階に入った。重い心臓病の治療を目指す大阪大学の臨床研究が2018年度中に始まる。京都大学の山中伸弥教授らがiPS細胞の開発に成功してから10年が過ぎ、既存の医療では克服できない難病治療という領域に踏み出す。

 iPS細胞による再生医療は14年に始まった目の難病である「加齢黄斑変性」に続く。心臓では世界初となる。阪大は18年度中に1人目の治療を始め、3年くらいかけて3人を治療する。16日に記者会見した阪大の澤芳樹教授は「何年かかろうが、一人でも多くの患者を救うべく、あらゆる努力をする決意と覚悟がある」と述べた。

 山中教授は阪大の計画了承を受けて「慎重に経過を見守りたい」とし、「(研究所で備蓄を進める)iPS細胞のストックを使っていただけるよう、より良い細胞を十分に提供していきたい」とのコメントを発表した。

 国内ではiPS細胞を使った再生医療の研究が進み、世界に先駆けて様々な病気を対象に治療計画が相次いでいる。

 京大の高橋淳教授らは、パーキンソン病の治療を目指す医師主導治験を18年度中にも始める計画だ。ドーパミンを出す神経細胞を他人のiPS細胞から作製し移植する。

 慶応義塾大学の岡野栄之教授と中村雅也教授らは脊髄損傷の患者を治療する臨床研究を計画する。神経のもとになる細胞を他人のiPS細胞から作製して脊髄損傷した部位に移植して回復する。

 京都大学iPS細胞研究所も血が止まりにくい難病である血小板減少症の臨床研究を計画する。

 これらの計画も阪大の計画が了承を受けたことが追い風になりそうだ。

 阪大が乗り出す臨床研究について厚生労働省の再生医療等評価部会は16日、手順や安全性を確認した。患者の対象は心臓の筋肉(心筋)に十分な血液が届きにくい「虚血性心筋症」で、重症心不全になった18~79歳の3人。心筋の働きが弱まり、既存の治療法では回復が見込めない。澤教授はこれまでも患者自身の太ももの細胞から作ったシートで治療を進めたが、症状の重い患者には効果が限られていた。

 今回は京大iPS研が備蓄する他人のiPS細胞を心筋細胞に育てる。他人の細胞なら患者が早く移植を受けられる。臨床研究で安全性が確認できれば、実用化に向けて効果を確認する医師主導治験を目指す。

 澤教授は対象患者は国内で数千~1万人と推定。治療費は実用化している心臓病治療の再生医療製品と「同程度にできればいい」(澤教授)と千数百万円程度を見込む。

2017年11月27日『毎日新聞』iPS細胞300疾患で作成 指定難病の半数をカバーする

有効な治療法が確立されていない病気に効く薬の開発などに役立てようと、国内でこれまでに約300種類の患者由来のiPS細胞(人工多能性幹細胞)が作製されたことが、理化学研究所バイオリソースセンター(BRC、茨城県つくば市)への取材で分かった。国が難病に指定している疾患の5割以上をカバーしている。京都大の山中伸弥教授がヒトのiPS細胞の作製を発表してから今月で10年。治療薬の候補となる物質の特定につながる成果も上がり始めており、iPS細胞を用いた創薬研究が今後、加速しそうだ。

 ◇創薬に期待

 患者の組織から作製したiPS細胞を使って培養皿の上で病気を再現すれば、治療につながる物質の特定作業が容易になると考えられている。このため、BRCは国内の研究機関が患者の皮膚や血液から作製したiPS細胞を集めて凍結保存し、別の研究機関に提供して研究に役立ててもらう「疾患特異的iPS細胞バンク」を2010年12月から運営してきた。京都大iPS細胞研究所など国内の公的研究機関が作製した患者由来のiPS細胞の寄託を受ける仕組みだ。

 BRCによると、国内の11機関が昨年度末までに、786人の患者の組織から作製した289種類の病気のiPS細胞をバンクに提供した。筋萎縮性側索硬化症(ALS)やパーキンソン病などの国指定の難病が171種類含まれており、全部で331疾患ある指定難病の半数以上をカバーする。指定難病以外にも、アルツハイマー病や統合失調症、てんかんなど、治療が難しく患者数が多い疾患もある。また、バンクを通さずに進む研究もある。

 BRCはこれまでに国内22機関、海外8機関にiPS細胞を提供した。神経系の難病の研究に利用されているケースが多いという。BRC細胞材料開発室の中村幸夫室長は「提供は今後増えていくと考えられる。たくさんの研究者に使ってもらい、一つでも多くの難治性疾患の治療に役立ててほしい」と話す。

 iPS細胞を活用した創薬研究では、京大iPS細胞研究所の戸口田淳也教授らのチームが今年8月、筋肉などに骨ができる難病「進行性骨化性線維異形成症(FOP)」の治療薬の候補を特定したと発表。10月から本格的な臨床試験が始まっている。

2017年10月25日『日本経済新聞』京大、iPS細胞を用いた心筋細胞で、不整脈の再現に成功。

 京都大学の山下潤教授らは23日、様々な細胞に育つヒトのiPS細胞から心臓の3次元組織を作り、致死性の不整脈を再現する手法を開発したと発表した。薬の候補物質をふりかけたときに不整脈が起こるかどうかの解析に使える。将来は心臓組織のモデルとして販売したい考え。製薬会社の新薬開発の効率向上に役立つと期待している。

 研究チームはヒトiPS細胞から心筋細胞と細胞間を埋める線維芽細胞をそれぞれ作った。この2種類の細胞を混ぜて培養し、シート状の組織に成長させた。5~6層の細胞からなる3次元の心臓組織ができた。このシートに不整脈を誘発する薬剤をふりかけると、不整脈特有の不規則な動きなどが再現できた。

 製薬会社は新薬候補を絞り込む際、心臓に不整脈を起こす可能性の有無を詳しく調べる。従来は培養したネズミの心筋細胞に薬剤をふりかける手法が一般的で、ヒトへの影響が正確に分からない例もあった。

 iPS細胞を用いる方法も使われ始めているが、再現できるのは不整脈の前段階の異常で、突然死の原因となる不整脈は難しかったという。今回の手法を活用すれば、薬剤の心臓への影響をより正確に評価できるとみている。

2017年10月7日『朝日新聞』iPSから心筋細胞を大量培養、臨床研究へ 慶大教授ら

iPS細胞から心筋細胞を一度に大量に作り出す技術を、慶応大の福田恵一教授(循環器内科)らの研究チームが開発した。重い心不全で心筋細胞が失われた患者に移植する治療の実施にめどが立ったとして、同大は来年度にも、実際の患者を治療する臨床研究を始める予定だ。米科学誌ステムセルリポーツに6日、研究成果を発表した。

 心筋梗塞(こうそく)や拡張型心筋症などに伴う重い心不全になると、心臓を拍動させている心筋細胞が数億個失われる。研究チームは、iPS細胞から心筋細胞を作る技術を手がけてきたが、心臓の機能を再生させるのに必要な数の心筋細胞を、一度に多く作る技術が実現できていなかった。

 研究チームは今回、iPS細胞を培養するプレート(縦約20センチ、横約30センチ)を10層に重ね、プレート内に酸素や二酸化炭素を均一に送り込む装置を開発。通気しない場合と比べて、1週間で約1・5倍のiPS細胞が得られた。さらに、プレート内でiPS細胞を分化させることで、数人分の治療ができる約10億個の心筋細胞を一度に作ることができた。従来の培養皿(直径約10センチ)では、同じ量を作るのに100枚以上が必要で、心筋細胞の質を均一にすることが困難だった。

 臨床研究では、作った心筋細胞を患者の心臓に注射で移植。元の心筋と一体化させ、血液を送る機能を向上することを目指す。

 また、味の素と共同開発した培養液を使い、移植された場合に体の中でがん化する恐れがある幹細胞を取り除き、心筋細胞だけを選別できることも確認した。福田教授は、「安全性の高い心筋細胞を大量培養できるようになったことは、臨床研究に向けての大きなステップだ。再生医療の産業化にもつながる」と話している。

朝日新聞デジタル

2017年8月24日『日本経済新聞』iPS細胞自動培養装置をパナソニックが商用化へ

 パナソニックは23日、iPS細胞を全自動で培養できる実験装置の販売を始めると発表した。装置は京都大学と共同で開発した。細胞の培養液を取り換えたり、頃合いを見て新しい培養皿に細胞を移したりする作業を全て自動で行う。iPS細胞を使って効率的に新薬を開発する創薬研究向けで、製薬会社や大学などの研究機関向けの販売を予定している。

 価格は約5000万円で2017年度内に5台、22年度には約15台の販売を目指す。

 大きさは幅2.7メートル、高さ2.4メートル。実験用の大型ボックスの中に備え付けられたロボットアームが自動で容器から液体を移したり、細胞ののった培養皿を運んだりする。

 培養中の細胞の形状を撮影し、細胞を別の培養皿へ移し替える最適なタイミングを自動で判別。移し替えを20回繰り返し、実際に60日間安定してiPS細胞を培養できた。

 iPS細胞から様々な臓器の細胞を作ると、新薬の効き目や副作用を調べる実験が効率的に進む。ただ、そのためには常に元のiPS細胞を培養し続ける必要があり、研究機関ではこの作業に手間がかかっていた。

 全自動の培養装置を使うと実験の再現性が高まる。より信頼性の高い実験ができる利点もある。

2017年8月22日『日本経済新聞』動物体内での人の臓器作成、文部科学省が一部解禁へ

 文部科学省の専門委員会は21日、移植用の臓器を作るため、動物の受精卵に人間の細胞を注入した胚と呼ぶ特殊な細胞の塊を動物の子宮に戻す研究を認めることで大筋合意した。従来は動物の体内で育てることを禁止していた。年内に報告書をまとめ、国は来年にも指針を改定する見通し。

 特定の臓器ができないよう遺伝子操作した動物の受精卵に人の細胞を移植、動物の子宮に入れて妊娠させる。そのまま育てると、人の臓器を持つ動物の子どもができるとされる。動物の受精卵に人のiPS細胞を入れてブタなどの体内で臓器を作る研究が国内外で進んでいるが、実際に移植に使える臓器ができているかは確かめられていない。

 同日の専門委員会では、研究の必要性を科学的、合理的に説明できることなどを条件に認められるとの方向性を打ち出した。研究計画は実施研究機関の倫理委員会で承認後、国が個々に了承する方向で検討する。

 人の細胞が混じった動物の出産を認めるかは、今後議論する。人の脳神経や生殖細胞などを作ったり、霊長類を使ったりする研究についても今後の検討課題とした。

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