大阪大学の研究グループが、重い心臓病の患者にiPS細胞から作成した心筋細胞を使った治験を行うため、近く国の審査機関に申請することが分かりました。認められれば世界初の心臓病治療が始まります。

 大阪大学心臓血管外科の澤芳樹教授の研究グループは、iPS細胞から作った心筋細胞をシート状にして、重い心臓病の患者の心臓に直接貼り付けることで、心機能の回復を目指す治療法を研究しています。

 去年5月、澤教授らは世界初となるiPS心筋細胞の臨床研究の承認を受け、昨年度中にも始める予定でしたが、大阪府北部を震源とする地震で細胞培養施設も被害を受け、研究開始が遅れていました。

 研究グループは、心筋シートを使った手術の治験の実施について、学内の審査委員会に申請し承認されたということで、今後は国の審査機関にも申請することにしています。承認されれば、世界初のiPS細胞を使った心臓病治療が始まります。

2019年9月26日『朝日新聞』iPS細胞から「ミニ多臓器」初成功 東京医科歯科大

 ヒトのiPS細胞から、肝臓と胆管、膵臓(すいぞう)を同時につくることができたと、東京医科歯科大の武部貴則教授らの研究チームが発表した。iPS細胞から、それぞれの臓器がつながった「ミニ多臓器」をつくったのは初めてという。論文は25日付の英科学誌ネイチャーに掲載される。

 iPS細胞を使ったこれまでの研究は、神経や心臓の細胞といった特定の細胞をつくるものが多かった。武部さんらは2013年、iPS細胞から初めての臓器となる「ミニ肝臓」をつくった。しかし、一つの臓器をつくって移植したとしても、機能が十分に発揮されなかったり長く働かなかったりするという課題があった。

 研究チームは、iPS細胞から複数の臓器を同時につくれないかと考えた。まず、iPS細胞から前腸組織と中腸組織という消化器系の臓器のもとになる二つの組織をつくった。これをくっつけたところ、境界部分に肝臓、胆管、膵臓のもとになる細胞が出現した。

 この細胞を培養すると、肝臓と胆管と膵臓がつながったミニ多臓器ができた。受精から1~2カ月の胎児の臓器ほどの大きさという。チームは前腸組織から出るレチノイン酸という物質が、肝臓、胆管、膵臓のもとになる細胞ができるのを促したとみている。

 実際にヒトに移植するには臓器とともに血管なども同時につくらなければならない。武部さんは「まだ基礎研究の段階だが、10年以内に今回開発した技術を実用化させて患者に届くようにしたい」と話している。

2018年11月9日『FNN PRIME』iPS細胞でパーキンソン病治療 京大が世界初の治験

世界で初めての治験が、京都大学のチームによって行われた。

京都大学iPS細胞研究所・高橋淳教授は「治験に協力していただいた患者さんに、感謝・敬意を表したい」と話した。

京都大学iPS細胞研究所の高橋淳教授は、治験を受けた患者への感謝の気持ちを表した。

パーキンソン病は、情報伝達物質「ドーパミン」を出す脳内の神経細胞が減少して、体が震えたり動作が緩慢になったりする難病で、根本的な治療法はない。

高橋教授のグループは、特殊な遺伝子の型を持つヒトから作ったiPS細胞を使い、ドーパミンを出す神経細胞を作り出した。

そして10月、世界で初めて、作り出した神経細胞およそ240万個を、50代の男性患者の脳に移植した。

高橋教授は、「薬が必要ないぐらい良くなることがベストです。セカンドベストとしては、薬を飲みながらでも、良い状態を保てるというところが目指すところ」と話した。

研究チームによると、経過は良好で、これから2年かけて安全性や効果を確認するという。

2018年11月13日『朝日新聞』iPSで脊髄損傷治療、慶大が承認へ 来夏にも臨床研究

 世界で初めてiPS細胞から神経のもとになる細胞をつくり、重い脊髄(せきずい)損傷の患者に移植する、慶応大のグループの臨床研究について、再生医療を審査する学内の委員会は13日、計画の妥当性を検討した。大きな異論はなく、承認される見通しになった。承認後グループは計画を国に申請する。

 厚生労働省の専門部会で認められ、順調に進めば来夏にも臨床研究が始まる。

 事故などで国内で毎年約5千人が脊髄損傷になり、患者は10万人以上いるとされる。脳からの命令を神経に伝えることが出来ず、手足が動かせなくなったり、感覚がまひしたりする。現在は損傷した部位を完全に修復する治療法はない。

 計画しているのは岡野栄之教授(生理学)と中村雅也教授(整形外科学)らのグループ。京都大iPS細胞研究所から提供されたiPS細胞を、神経のもとになる細胞に変化させる。200万個の細胞を脊髄の損傷部に注入し、脳からの信号を伝える組織をつくることで、運動機能や知覚の回復を目指す。

 運動や感覚の機能が失われた「完全まひ」で18歳以上の4人が対象。組織の修復が盛んになる損傷から2~4週間程度の患者にする。損傷から時間がたった人より修復を期待できるためだ。他人由来のiPS細胞を使うため、免疫抑制剤で拒絶反応を抑える。移植した細胞が腫瘍(しゅよう)化する恐れがあり、移植後の半年間のリハビリと合わせ、1年かけて安全性と効果を慎重に確認していく。

 岡野教授らは脊髄を損傷した小型サルの一種マーモセットに、ヒトのiPS細胞からつくった細胞を移植し、歩けるよう回復させることに成功している。

 iPS細胞を移植して治療する臨床研究は、目の病気の加齢黄斑変性で6人に実施。京都大でパーキンソン病の治験が進む。大阪大では心不全の患者に心臓の筋肉のシートを移植する計画。京都大では血液の難病などでも予定されている。(戸田政考)

2018年5月17日『日本経済新聞』iPS細胞本格利用へ前進 阪大、年度内に心臓病治療 再生医療の中軸に

 日本発の再生医療であるiPS細胞(総合2面きょうのことば)の治療が新たな段階に入った。重い心臓病の治療を目指す大阪大学の臨床研究が2018年度中に始まる。京都大学の山中伸弥教授らがiPS細胞の開発に成功してから10年が過ぎ、既存の医療では克服できない難病治療という領域に踏み出す。

 iPS細胞による再生医療は14年に始まった目の難病である「加齢黄斑変性」に続く。心臓では世界初となる。阪大は18年度中に1人目の治療を始め、3年くらいかけて3人を治療する。16日に記者会見した阪大の澤芳樹教授は「何年かかろうが、一人でも多くの患者を救うべく、あらゆる努力をする決意と覚悟がある」と述べた。

 山中教授は阪大の計画了承を受けて「慎重に経過を見守りたい」とし、「(研究所で備蓄を進める)iPS細胞のストックを使っていただけるよう、より良い細胞を十分に提供していきたい」とのコメントを発表した。

 国内ではiPS細胞を使った再生医療の研究が進み、世界に先駆けて様々な病気を対象に治療計画が相次いでいる。

 京大の高橋淳教授らは、パーキンソン病の治療を目指す医師主導治験を18年度中にも始める計画だ。ドーパミンを出す神経細胞を他人のiPS細胞から作製し移植する。

 慶応義塾大学の岡野栄之教授と中村雅也教授らは脊髄損傷の患者を治療する臨床研究を計画する。神経のもとになる細胞を他人のiPS細胞から作製して脊髄損傷した部位に移植して回復する。

 京都大学iPS細胞研究所も血が止まりにくい難病である血小板減少症の臨床研究を計画する。

 これらの計画も阪大の計画が了承を受けたことが追い風になりそうだ。

 阪大が乗り出す臨床研究について厚生労働省の再生医療等評価部会は16日、手順や安全性を確認した。患者の対象は心臓の筋肉(心筋)に十分な血液が届きにくい「虚血性心筋症」で、重症心不全になった18~79歳の3人。心筋の働きが弱まり、既存の治療法では回復が見込めない。澤教授はこれまでも患者自身の太ももの細胞から作ったシートで治療を進めたが、症状の重い患者には効果が限られていた。

 今回は京大iPS研が備蓄する他人のiPS細胞を心筋細胞に育てる。他人の細胞なら患者が早く移植を受けられる。臨床研究で安全性が確認できれば、実用化に向けて効果を確認する医師主導治験を目指す。

 澤教授は対象患者は国内で数千~1万人と推定。治療費は実用化している心臓病治療の再生医療製品と「同程度にできればいい」(澤教授)と千数百万円程度を見込む。

2017年11月27日『毎日新聞』iPS細胞300疾患で作成 指定難病の半数をカバーする

有効な治療法が確立されていない病気に効く薬の開発などに役立てようと、国内でこれまでに約300種類の患者由来のiPS細胞(人工多能性幹細胞)が作製されたことが、理化学研究所バイオリソースセンター(BRC、茨城県つくば市)への取材で分かった。国が難病に指定している疾患の5割以上をカバーしている。京都大の山中伸弥教授がヒトのiPS細胞の作製を発表してから今月で10年。治療薬の候補となる物質の特定につながる成果も上がり始めており、iPS細胞を用いた創薬研究が今後、加速しそうだ。

 ◇創薬に期待

 患者の組織から作製したiPS細胞を使って培養皿の上で病気を再現すれば、治療につながる物質の特定作業が容易になると考えられている。このため、BRCは国内の研究機関が患者の皮膚や血液から作製したiPS細胞を集めて凍結保存し、別の研究機関に提供して研究に役立ててもらう「疾患特異的iPS細胞バンク」を2010年12月から運営してきた。京都大iPS細胞研究所など国内の公的研究機関が作製した患者由来のiPS細胞の寄託を受ける仕組みだ。

 BRCによると、国内の11機関が昨年度末までに、786人の患者の組織から作製した289種類の病気のiPS細胞をバンクに提供した。筋萎縮性側索硬化症(ALS)やパーキンソン病などの国指定の難病が171種類含まれており、全部で331疾患ある指定難病の半数以上をカバーする。指定難病以外にも、アルツハイマー病や統合失調症、てんかんなど、治療が難しく患者数が多い疾患もある。また、バンクを通さずに進む研究もある。

 BRCはこれまでに国内22機関、海外8機関にiPS細胞を提供した。神経系の難病の研究に利用されているケースが多いという。BRC細胞材料開発室の中村幸夫室長は「提供は今後増えていくと考えられる。たくさんの研究者に使ってもらい、一つでも多くの難治性疾患の治療に役立ててほしい」と話す。

 iPS細胞を活用した創薬研究では、京大iPS細胞研究所の戸口田淳也教授らのチームが今年8月、筋肉などに骨ができる難病「進行性骨化性線維異形成症(FOP)」の治療薬の候補を特定したと発表。10月から本格的な臨床試験が始まっている。

2017年10月25日『日本経済新聞』京大、iPS細胞を用いた心筋細胞で、不整脈の再現に成功。

 京都大学の山下潤教授らは23日、様々な細胞に育つヒトのiPS細胞から心臓の3次元組織を作り、致死性の不整脈を再現する手法を開発したと発表した。薬の候補物質をふりかけたときに不整脈が起こるかどうかの解析に使える。将来は心臓組織のモデルとして販売したい考え。製薬会社の新薬開発の効率向上に役立つと期待している。

 研究チームはヒトiPS細胞から心筋細胞と細胞間を埋める線維芽細胞をそれぞれ作った。この2種類の細胞を混ぜて培養し、シート状の組織に成長させた。5~6層の細胞からなる3次元の心臓組織ができた。このシートに不整脈を誘発する薬剤をふりかけると、不整脈特有の不規則な動きなどが再現できた。

 製薬会社は新薬候補を絞り込む際、心臓に不整脈を起こす可能性の有無を詳しく調べる。従来は培養したネズミの心筋細胞に薬剤をふりかける手法が一般的で、ヒトへの影響が正確に分からない例もあった。

 iPS細胞を用いる方法も使われ始めているが、再現できるのは不整脈の前段階の異常で、突然死の原因となる不整脈は難しかったという。今回の手法を活用すれば、薬剤の心臓への影響をより正確に評価できるとみている。

2017年10月7日『朝日新聞』iPSから心筋細胞を大量培養、臨床研究へ 慶大教授ら

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